西海岸行の飛行機のこのワタクシにとっての欠点は、出発時刻が夕方、到着時間が日本時間でいうと深夜になる便が多いことである。
つまり、その日のナイターは結果しか判らないということになる。
もっとも、それは長距離の飛行機ならどこに行くときも同じなのだが、西海岸や東南アジアの場合は、せっかく夕方まで日本にいたのに、、、という思いが強い。
今回は、さらに最悪なことに、このワタクシの席の近くにいた客室乗務員が、美人ではあるのだが非常に無愛想なのであった。
離陸して約4時間半、いつものように、このワタクシは席から立ち上がった。
それに気付いた無愛想な客室乗務員が、「何か御用でも」と聞いてきた。
「電話ありますか?」とこのワタクシ。
このワタクシとしては、電話のありかは当然知っているのだが、一応話しかけられたから答えたまでである。すると彼女は電話のあるところまで案内してくれた。
「どうも」と言って、手馴れた手つきで電話掛けるこのワタクシ。
「○×スポーツ、プロ野球速報です!」音声が流れる。
「巨人対ヤクルト・7回を終わって***、横浜対広島・6回を終わって***、、、」
よし、次は阪神か、と思っていると、パリーグになった。何回繰り返して聞いても、同じことである。
今最も重要である、虎対竜の大決戦の途中経過が判らないのである。ひょっとすると、○×スポーツの録音ミスかもしれない。中止であれば中止と言うはずなのだが、そうとも言っていない。。。
電話を切ると、さきほどの無愛想な客室乗務員に「スポーツ新聞ありますか?」と聞いた。○×スポーツ以外の速報番号を調べようと思ったのだ。
「先ほどは、サンケイスポーツを読まれてましたので、スポーツ報知でもお持ちしましょうか」と客室乗務員。
「いや、それだけは。。。」とこのワタクシ。客室乗務員は、スポニチを持ってきた。
席に戻ることもなく、電話機の前の暗がりでスポニチの速報電話番号を真剣に探していると、客室乗務員が「どうかされましたか?」と聞いてきた。
この忙しいときにうるさいヤツだ、と思ったものの、喧嘩するほどのことでもないと思い、「実は、今日の阪神対中日の結果が知りたいのです」と言うと、間髪いれずに「阪神の勝ちでしょう」と彼女は言ってきた。
「それはそうあってほしいのですが、確認しないと。。。」とこのワタクシが口ごもると、「間違いありません」と彼女は言い切った。
あまりの勢いにこのワタクシが怯んでいると「お客さん、阪神ファンですか?」と聞いてくるので、「一応。。。」と答えると、「私もです!!」と彼女。
そして、「私は大阪出身やからコテコテの阪神ファンですわ!」とのこと。その時点で、既にバリバリの大阪弁になっていた。
ちょっと彼女の勢いに押され気味になったので、とりあえず、「大阪のどちらですか?」と聞くと、「弥刀(ミト)ですわ」とのこと。
「なんや、そうでっか、このワタクシは、昔布施に住んでましてん、そのあと山本に引越しましてんけど。。。」とこのワタクシ。
「え〜、むっちゃ、近いやん。布施も山本も無理すりゃ自転車で行けんで〜」と彼女。そりゃそうである、布施から弥刀まで近鉄で三駅、弥刀から山本までも三駅である。時速1,000キロ近い乗り物の中で自転車の話もないのだが。。。
それから、約30分の地元談義となった。他の客室乗務員が、この大阪弁の二人組は何をしとんねん、という目で通り過ぎていく。
「ところで、星野さんの読売入りの噂、どう思わはりますか?」と彼女が切り出したことをきっかけに、今度は、阪神談義が約1時間である。
客が少なかったということもあるが、1時間半も客室乗務員が立ち話しても良いのかどうか気になるところではあった。
ちなみに、そのあとに、さらに15分ほど、この航空会社の関西空港路線問題にまで話はおよんだ。
結局のところ、彼女は、大阪出身の根っからの阪神ファンで、実家から通える(?)ということで某社の関西空港ベースの客室乗務員となり、関西路線を中心に飛んでいたらしい。
もちろん、フライトの合間には甲子園通いである。ちなみに、弟も熱狂的な阪神ファンで、遂には阪神電鉄に就職したらしい。
ところが、某社の関西空港路線はほとんど撤退してしまったので、成田ベースに転勤となってしまったとのこと。
それでも阪神の試合は時間があれば欠かさず乗り込んでいるらしい。今年の、ほとんど阪神勢がセリーグを独占したオールスターゲーム(インボイスドーム)にもちゃんと乗り込んでいたというから本物である。また、地方試合にも足繁く通っているらしい。(地方試合は欠かさないというのも、このワタクシと同じである)
大阪弁しかまともに話せない彼女は、東京転勤になって以来、標準語が中心となった客室での勤務が苦痛で仕方がないらしく、自分でも嫌なくらい無愛想になってしまったらしい。。。(確かに、大阪弁での会話では、非常に愛想が良かった)
二言目には「報知」という客が多いことから、自分では絶対に読まないにも関わらず、「報知」を勧めてしまう自分にも嫌になっているとのことであった。(まったく同感、、、彼女の職場環境の悪さには同情してしまうのである。)
てなてな訳で、美人ではあるのだが標準語では無愛想な彼女とこのワタクシが、空の上だけではなく、陸でも再会するのは必然となってしまったのである。
とりあえず、虎グッズで埋め尽くされたこのワタクシの愛車で横浜球場に一緒に行くことを約束し、このワタクシはサンフランシスコ空港に降り立ったのであった。
多分30代前半と思われる彼女は、「友達みんなに言うててん、『次に阪神が優勝するまで結婚せ〜へんで』て、それが一昨年突然優勝するもんやから、準備してへんがな。。。 今年、そろそろ準備せなあかんわ。。。」
どっかで聞いたようなセリフである。そう、このワタクシが30代後半まで結婚しなかった言い訳に使っているセリフである。
我々の出会いは運命であったのかもしれない。。。
ラベル:愛