早速、電話してみた。
すると、なんともかわいらしい声の丁寧な女性が電話に出たので、いきなりこの会社に不用品を引き取ってもらうことにした。一応、この女性には、「まさか受付だけかわいらしい声で、実際には怖いオッサンが来るって事はないですよね?」と確認すると、丁寧に「そんなことはございません」と言っていた。
翌日、約束の時間に愛想の良い男性二人がやってきた。
二人組は、文字通り足の踏み場もない我が家に突入してきて、うずたかく積もったガラクタを見てはテキパキと見積もりを始めた。このワタクシが、「こんなに汚くてすいませんね〜」と言うと、「これならかなりマシです」とお世辞ともつかないようなお褒めの言葉をいただいた。
結局、作業はいきなり始まった。
このワタクシとしては、見積もりのあと改めて回収に来られるものと高をくくっていたので、本当に不要な物とひょっとしたら要る物の区別がまだできていなかった。正直なところ、何が積み上がっているのかも判らなかったのである。
すると、「今日は確実に要らないと思われる大きなものから処分しましょう。時間の都合で全ては処理できないと思うので、一部は改めて回収に来ますので、それまでに仕分けておいてください」ということになった。
そして、机とか、動かない扇風機とか、白黒になってしまったカラーテレビとか、今では言葉すら死語になってしまったワープロなどが運び出された。さらに、「よく判る Windows 95」とか「PowerPoint 97」といった明らかに不要な本も大量に廃棄された。
そして、第一日が終った。
半分以上の物がなくなった部屋の中でこのワタクシはガラガラになった本棚を見つめていた。
「このうちどれを残せばよいのか」、、、これはかなり難しい問題である。夏目漱石の単行本全集なんて、また読むのかどうかも判らないし、かつて愛読した作家の本も残しておきたいが、残したところで意味があるのか?
またカバーがかかっていて中身の判らない本もある。試しに一冊手に取ってみた。カバーをはずすと、「夜の中国語会話〜これで本場の小姐が口説けます〜」と書いてあった。。。 これは要るのか、要らないのか。中を見てみると、「アナタを愛しています」や「今晩お暇?」なんて言葉が永遠に並んでいる。恐ろしいことに、そのほとんどの言葉を理解しているのである。丁寧に線まで引いてある部分も多い。(どの部分かはここには書けない。。。) この本は相当役に立ったようである。。。
結局、、、全てを捨てることにした。なぜなら、少なくとも、この10年くらいは読んでいないものばかりだからである。
本棚の隅の方に、平積みにされているノートや写真を発見した。
色褪せたノートを一冊を開いてみた。
それは、昔の彼女との交換日記であった。手に取ったのは、中学校のときのもののようだ。
誰もいない部屋なのに、誰かに見られているのではないかと思いつつ、赤面しながら少し読んでみた。
そこには、まだ社会を知らない一人の少年と、その彼女の(はっきり言って)くだらない文章が並んでいた。その彼女との交換日記は数冊に及んでいて、全ての表紙が、彼女の(美的センスのない)絵で飾られていて、右下に何冊目かを示す番号が振られていた。そうだ、確か、奇数はこのワタクシが、偶数は彼女が、一生キープすることにしたんだっけ。。。
くだらない文章だと思いながらも、どういうわけか、その文章を書いたときの気持ちとかが、昨日の事のように思い出されてきた。
その彼女と最後に会ったのは、当時(高校一年生のとき)住んでいた街の駅前の古ぼけた喫茶店であった。「お互いにお互いが好きだ」、ということを彼女が確認しておきながら、「でも別れなくてはいけない」と彼女が言ったのであった。それ以来、女心というものが判らなくなった。そして既にそれまでに生きた年月よりも、それ以降の年月の方が遥かに長くなっている。。。
このワタクシの手元にあった最後のノートには、表紙に「29」という番号が付いていて、その下にこのワタクシと彼女の(ヘタクソな)似顔絵と小さな二人の子供の絵が描いてあり名前まで付いていた。そういえば、将来の子供の名前まで考えていたのだ。(このワタクシもバカだった。。。)
「31」がないということは、「30」は別れ話か。。。 そして、別れ話の方を彼女が持っているとは思えないので、偶数は全て、間違いなく灰になっているであろう。。。
それにしても、(すっかり忘れてはいたが)こんなものがいまだに残っているなんて、なんてメメしい男なのだ。。。
半分あきれ返りながらも、これらは捨てるべきかどうか判断がつかず、一度本棚に戻した。
今度は「写真なんて撮るときだけ楽しくて、撮ったら要らないものばかりだな〜」、と思いながら、2〜3枚の写真を見てみると、そこには、体重が30kgは軽いと思われる10年くらい前のこのワタクシがいて、未来のこのワタクシにピースしている。「この写真の人物は、自分がこんなに巨大化するとは思っていなかっただろうな〜」なんて、思わず感慨に耽ってしまった。
さらに数枚めくってみると、交換日記の彼女とのツーショットが出てきた。どうやら中学校の正門の前で二人で撮ったもののようである。かなり後方に桜の木が写っている。これは、卒業式の日に違いない。
そこには、周りの目を気にしているのか妙に無愛想な少年と、ニッコリと笑っている少女がいる。どこからどう見ても、少年は嫌々写っているような感じである。
「好きだけど別れなくてはいけない」と彼女が言ったのは、その数ヵ月後である。
この少年の嫌そうな顔を写真で見ていると、彼女の言った言葉の意味がなんとなく判ってきたような気がする。このワタクシですら、こんな無愛想な写真の男とは友達になりたくない。(おいおい、お前や、写真の男は、、、というツッコミがあっちこっちから聞こえてきそうだ)
それにしても、なぜ交換日記と彼女との写真だけが平積みにされていたのだろうか。
記憶にはないが、多分前の引越のときにこれらだけ捨てられなかったのではないか。
そして、今回もこれらは捨てれそうにない。。。
ラベル:愛
今度一度、女心ってものを御講義いただけると助かります。
よろしく、かつお手柔らかにお願いいたします。