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ぱんちょなゴルフ道

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2007年04月01日

さらば桜新町

 ほんの仮の住まいであるはずだった桜新町の賃貸マンションから引越することになった。
 今まで生涯一独身を貫いてきた、いや自分の意図とは関係なく、結果的に独身を続けていたこのボクに突然の変化が訪れ、南の島で新しい生活を送ることになったのである。(参照:「一瞬の勇気」)

 この数ヶ月、恐ろしいほどの偶然が重なった。 
 ボクがダイビングなんてスポーツを始めたのも、今から思えばわずか4ヶ月ほど前の話である。
 その結果昔の彼女と突然再会したのもほんの偶然だったし、その彼女と毎週のように海に潜るようになり、そのまま一緒に暮らすように決めたのも偶然である。
 そして今、彼女とボクは、成田空港に向かっている。
 
 東京に住むこと自体が仮住まいのつもりでいたボクは、たまたま弟がバブル崩壊後の都心に買っていたマンションの一室に居候していたのである。
 東京ドームを目の前にしたその場所に住んでいると日常の生活には何の不自由もなかった。
 結局、気が付いたら8年近く居座ることになってしまっていた。
 恐ろしいことに、山手線の内側に住んでいると、山手線の外に出るということはまったくなくなってしまう。
 ほんのちょっと、このJRの環状線の外に出るときといえば、銀座や渋谷に行くときくらいであった。
 そして、山手通りや環七、環八と聞くと、同じ東京でもとんでもなく遠く思えてしまったものである。

 二年前の春の終わり、なぜか突然、そろそろ居候をやめようと思ったボクは、賃貸情報誌をくまなく読みあさるようになった。
 明らかに便利である都心を中心に物件を探したのだが、どうもパッとしない。
 最大のネックは、車を二台連れて行かないといけないということである。
 都心で引っ越すとなると、車二台分の駐車場代金だけで人が住めてしまいそうな値段になる。
 弟が買ったとはいえ、買っているマンションだけに、駐車場の条件が非常に良かったということがそのときに初めて判った。
 引越をやめようかとも考えたが、とりあえずは、転居先の候補地を23区全域に拡大した。

 小石川後楽園の桜が鮮やかに咲き始めたこととは何の関係もないとは思うものの、桜新町という地名が目に留まった。実際には、良い物件に目が留まり、その場所が桜新町だったというべきか。
 桜新町ってどこやねん?
 歴史のない東京にありがちな、単純なネーミングだな〜、、、とバリバリの関西人であるボクは思った。
 後に、近くに「桜」という地名と「新町」という地名を発見したときはずっこけた。

 オートロックが二重に設置された、その新築賃貸マンションの一階の物件が、賃貸情報誌で見つけた物件であった。
 まだ何の家具もないその部屋を見せてもらうと、さすがに一階だけに、植木が周囲に植えられてはいるものの、外から丸見えという感じがした。
 オートロックが二重であっても、あまり意味がないという気がしないでもない。
 にもかかわらず、今になってもなぜだかよく判らないが、その部屋には妙に惹かれるものがあった。
 数日後、賃貸契約書に判を押した。


 新居に住み始めて判ったことは、桜新町がサザエさんの街であったということである。
 確かに、サザエさんが最初に作られた頃とは違って、核家族化は進んでしまってはいるようだが、街角からワカメちゃんが飛び出してきそうな雰囲気である。少し街を歩けば、タラちゃんを連れたサザエさんともひっきりなしにすれ違う。もっとも、ボクを見たサザエさんは、心持ち強くタラちゃんの手を引くような気がしないでもなかったが。
 いずれにしても、都心のように様々な人が集まってくるわけではなく、逆に、昼間は都心に人を供給している郊外の街である。
 だから、耳に赤ペンをさして競馬新聞を読んでいるオッサンがいるわけでもなく、コンサート前に派手な衣装に着替えるような女子高生も見かけない。
 要するに普通の人が普通に生活しているわけである。
 普通の場所に住み始めると、自分にとって、その普通がいかに不得手であるかが判り始めた。

 普通の人は、結婚して子供を作り、家族のある生活をしていた。
 普通の人は、朝それなりの時間に起きて、それなりの時間に出勤し、それなりの時間に帰宅するようだ。
 一方、ボクは、一人でカップ麺をすするような夕食を明け方に取り、目が覚めると太陽は南中している。
 夜になっても、そもそもいない家族のことなど考えずに、プロ野球の6試合を激しくチャンネルを変えながら見ている。
 近くの住人たちは、人種が違うのか、それともボクが違うのか。

 それでも、住み始めて、何日、何週間、何ヶ月と経つうちに、名前は知らないがよく会う近くの住人と挨拶を交わし、ホカ弁屋のオジサンとも仲良くなり、コンビニのバイトとも雑談を交わすようになってきた。
 ボクもそろそろ普通化してきたのだろうか。

 普通化してきたボクは、普通の男のように、普通の恋をした。
 少し、その恋は劇的だったかもしれない。でも、恋なんて、普通は誰にとっても劇的だろう。
 しかし、都会で肩肘張って生きてきたボクの今までの恋は、普通の人の普通の恋とはかけ離れていたような気がする。
 今までなら、恋は100%完璧でなければならなかったし、彼女も100%完璧でなければならなかった。ボクは、10%程度のデキの男でしかないのに。
 そして、普通に彼女と一緒になりたいと考え始めた。
 普通のボクと彼女は、普通の人が、普通に比較的職場に近い場所に住むことを考えるように、ダイビングを教えている彼女の勤務先である南の島で新しい生活を始めることにした。


 3月末に退去ということでマンションの賃貸契約を解約し、駐車場も解約し、諸々の手続きを済ませた。
 桜新町から去る日が段々と近づいてきた。
 あとは荷造りをするだけなのだが、どういうわけか最後まで荷造りをする気が起こらなかった。
 ダンボール箱の山を前にしても気分が乗らず、猫の額のような庭に出ては、反射するガラス扉を前にゴルフのスイングの確認をしたり、今までじっくりと見たこともない植木を眺めていた。
 庭からは、通り沿いに植えられた、桜新町のシンボルである満開の桜が何本か見えた。

 結局、街を去る前日の金曜日になり、ゆっくりと荷造りを始めた。
 一つのダンボール箱が一杯になるたびに、そして、散らかっていたモノが減るたびに、今まで住んでいた部屋が、徐々にではあるが、自分とは関係のない他人の場所になっていく感覚が湧き上がってきた。
 同時に思い出のようなものが頭をよぎり始めた。
 よく小説などでは、思い出の一コマ一コマが蘇ってくると表現されているが、一コマ一コマは蘇ってこない。なにかモヤっとした思い出の感覚が胸を締め付ける。

 まだモノがたくさんあるのに、作業がほとんど進まない。
 そして、いよいよ最後の日になり、夕方に引越し屋さんが荷物を引き取りにやってきた。
 彼らは、キビキビと手際よく荷物を整理し始めた。
 彼らにとっては、あくまでも日常の仕事であるのだが、ボクにとっては、日常が壊されていく感覚がますます大きくなってくる。
 引越し屋さんがやってきたときには快晴であった空が、作業が進むにつれ、嵐とともに真っ暗になり、遂には暴風雨になった。
 チラリと眺めた窓の外には桜吹雪が舞っているようだ。

 遂に、ボクの日常の場所が、ボクが作った幾つかのシミや傷を残して、最初に物件を見に来たときの状態に戻った。
 その瞬間、二年前の春にタイムスリップしたような気がした。
 カーテンの取り外された部屋は、最初に見に来たときと同じく、外から丸見えのようであった。
 ボクは、再び過去の普通ではないボクに戻り始めていた。
 
 桜新町を引き払った夜、ボクは一時的に都心の弟のマンションに泊まった。
 翌朝、二年前まで居候していた同じ部屋で目が覚めた。
 昔住んでいたからかもしれないが、もう長年の住処にいるような感覚である。
 半日前に感じた桜新町の思い出などすっかり消えてなくなっている。
 
 午後には、空っぽになった桜新町の前日までの住処に戻らなければならなかった。
 最終的な物件の立会い検査である。
 都心から乗った高速を降りて、毎日のように通った環八や近くの抜け道を行く。すべてがなんとなくぎこちなく、全然知らない場所にいる感覚がする。
 マンションの前の通りも、マンションの入り口も。
 いつもは、何気なく開けていた二重のオートロックも。

 そのとき、ふと心の中で、彼女と一緒になってもよいのだろうか、という疑問が起こった。
 普通でなかったボクは、いつも恋愛の土壇場でそう考えたものだった。そして、また普通でないボクが顔を出してきた。
 自分を普通の男にしてくれたこの街ですら遠い存在になりつつある。
 
 物件の立会い検査が終わった頃、彼女がやってきた。
 これから一緒に空港に向かうのである。
 もうボクの痕跡のないマンションの前で、彼女は、「行きましょう!」と腕を絡めた。
 ボクは一瞬躊躇った。
 昨日の嵐でほとんどの花を散らせた桜の木から最後の桜吹雪が舞い落ちてきた。
 桜新町の最後のエールを受けたボクは、自分の腕を彼女の腕にしっかりと絡めた。
 

(関連エントリー)
 「引越と交換日記と
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posted by ぱんちょなあおのり at 23:22| 奈良 ☁| Comment(8) | TrackBack(0) | ぱんちょな恋の物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「一瞬の勇気」で、今年、panchoさんのグアムでの挙式があるのかどうか?と質問したmihaです。
ノーコメントだったのは、そういうわけでしたか…。

なぜか、読んでて、切なく胸を締め付けられるような記事でしたねー。
泣きそうでした。

とにもかくにも、おめでとうございます!!

こうして、一つの時代が終わっていくんですね。。。(生涯独身という)
あとに続いていけるように、頑張りますゎ。
Posted by miha at 2007年04月04日 16:14
むむむ・・・
またエイプリルフールですか?^^;
二年前の、彼女と結婚することになり桜新町に引っ越されたという
'05/4/1の記事には、みごと騙された私ですが、
今度は懐疑的になっております。。。
ホントでしたら、今度こそ「おめでとうございます」なのですが・・・
Posted by ひまひま at 2007年04月05日 20:30
へー、そうなんだ。。。
Posted by 私設秘書 at 2007年04月08日 14:19
ぎゃーぎゃー。
ひまひまさん、そうなんですか!?

信じて疑ってなかった私は、まだまだ「はん恋」初心者?
Posted by miha at 2007年04月20日 14:30
すみません・・・
私が読んだのは'06/4/1の「桜咲く」の記事でした。
内容も勘違いして覚えていたみたいで、
一緒に暮らし始めた彼女と4/1に婚姻届を出したというものでした。
うろ覚えで書いてしまってすみません。
すっかり騙されてしまったことだけ覚えていたのです。^^;

でも、今度の、南の島での新しい生活、
本当だといいなと思っているのですが・・・
Posted by ひまひま at 2007年04月21日 20:41
ひまひまさん、ありがとうございます。

ほんとにほんとのことだったらいいのですが。。。
ご本人の弁がないのでわかりませんね。
でも、今は日本にいるらしいです。

それにしても、南の島で日本のプロ野球全試合は見られるのでしょうか??
それだけが心配です。
Posted by miha at 2007年04月23日 13:22
>読んでて、切なく胸を締め付けられるような記事でしたねー。
>泣きそうでした。

 、、、とまで書いていただいたので、本人の弁を書くわけにもいかず。。。
 いずれにしても、毎年恒例の4月1日ネタであったわけです。
 現実的には、このブログに載っているエントリーのほぼ全てが創作なのですが、4月1日だけは、気合が入っていて、毎年その前の1年間の記事とリンクさせて大作を書こうと思っています。

 そういう意味では、引越を朝まで手伝った私設秘書さんの
>へー、そうなんだ。。。
 というコメントが最も適切なわけであります。。。

 しかしながら、毎年4月1日には、信用してくれる人がいるわけで、このワタクシの文才も相当なものではないかと、自画自賛している今日この頃です。

 、、、というわけで、日本のプロ野球の全試合は当然のように(寂しく一人で)見ています。。。
Posted by Pancho at 2007年04月23日 16:11
>毎年4月1日には、信用してくれる人がいるわけで、

ぱん恋初心者、顔洗って出直します。
来年は頑張って、用心します。
Posted by miha at 2007年04月24日 14:49
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