熱狂的なジャイアンツ・ファンの店長のいる東京ドームの目の前の店にこのワタクシが足繁く通うというのは、自分で言うのも変だが、極めて異例な行為である。(もっとも、どこのチームのファンでも、熱狂的なファンとは逆に話があうものである。困るのは、「なにげなく○○ファン」である人々である)
その夜の「いっぱち」にはアメリカ人が4人来ていた。初めからアメリカ人と分ったわけではない。アメリカ人と判別できたのは、カロウジテとはいえ、外国語学部英語学科を卒業したこのワタクシのなせる業である。。。
ジャイアンツ・ファンの店長は、日本語しか用意していないメニューを説明するのに大変困った、と言っていた。アメリカ人のテーブルを見ると、なんとビールしか置かれていない。どうやら、会話が成立せずに、ビールだけ、となってしまったようである。。。
このワタクシは、「クラムベリー・サワー」と「つけ麺」を頼み、待っている間に読むために持っていったスポーツ新聞を読んでいた。ところが、どうも読んでいる新聞の文章が頭にすんなりと入ってこない。とにかく、アメリカ人がうるさいのである。彼らがうるさすぎて、集中力をつかさどる神経がうまく機能していないようである。
あきらめた。このままでは読み続けることは不可能である。店長も、「すいません、さっきからあの迫力で、、、」とスマナそうにしている。確かに、「シャラップ」なんて言おうものなら、ほろ酔い気分の彼らにボコボコにされてしまうであろう。
長い(うるさい)ものには巻かれたほうが良い、というのを座右の銘にしているこのワタクシは、新聞をかたわらに置いて、彼らがでかい声で何を話しているのか聞いてみることにした。
(以下、英文関西弁訳:なお、このワタクシのリスニング力ゆえ内容は保証できない)
A:「あいつら、ほんまケシカラン」
B:「あいつらって誰でんねん」
A:「それが分からんから困ってまんねがな」
C:「イスラムに決まっとるやろ」
D:「イスラムがケシカランというように、イスラム全体を悪いっちゅうのは、暴論やろ、ちゃうか」
C:「なん言うてまんねん。今こそ、イスラムを叩きつぶしたらんかい、っわれっ(「っわれっ」は、文脈から判断して付けたした)」
B:「うひゃ、こいつ寝とるで」
C:「Aはすぐ寝よるからな〜。こいつもヤッてまうか」
B:「おまはん、かなり酔うとるな」
D:「ほな、ソロソロ行こか」
A:「まだ飲みたらんやろ」
BCD:「なんや起きとったんかいっ、アホッ」
なんと、お国の一大事に、単に酔ってクダを巻いていただけの話であった。すぐに志願兵としてお国に駆け付けるくらいの気概はないのかい。
と思っていたら、金を多めに払った彼らは(元々会話が成立していなかった上に、酔っ払った結果、ビール11本に対して1万円を投げて帰っていったのである)、少し悲しげに国歌を歌いながら店を出ていった。国歌が遠ざかるにつれ、店には静寂が戻ってきた。
彼らが酔いつぶれていたのは、お国の一大事を憂えてのためなのか、いつものことなのかは分からないが、少なくとも心を痛めていたことは間違いない(と思いたい)。
(あとがき)
いつものこのワタクシなら、「そんなにウルサイ国民だから攻撃されるんだ」という文章で締めくくっているはずなのだが、悲しげな国歌がなんとも心に引っかかるのである。
(関連サイト)
「目には目を」